水谷豊と伊藤蘭という、日本のエンターテインメント界における伝説的な大物夫妻を親に持つ女優・趣里。彼女が歩んできた道のりは、決して平坦なものではなかった。幼少期からバレエに打ち込み、怪我によってダンサーの夢を断念せざるを得なくなった彼女が選んだのは、演劇という過酷な表現の世界だった。親の名前に甘えることを頑なに拒み、小劇場の舞台から一歩ずつキャリアを積み上げてきた姿は知る人ぞ知る話だ。
その努力が結実したのが、NHKの連続テレビ小説『ブギウギ』でのヒロイン抜擢だった。歌って踊り、戦後の日本を明るく照らした大スター・笠置シヅ子をモデルとした難役を見事に演じ切り、お茶の間のハートを鷲掴みにした。圧巻の歌唱力と全身全霊のダンス、そして悲哀を滲ませる繊細な芝居は、「二世」という世間の先入観を跡形もなく吹き飛ばした。もはや彼女を語る際に親の名前を引く必要はない。趣里という一人の大女優が誕生した瞬間だった。