突然顎が外れたら?自力整復の危険性と口が閉じない緊急時の正しい治し方

突然顎が外れたら?自力整復の危険性と口が閉じない緊急時の正しい治し方

突然顎が外れたら?自力整復の危険性と口が閉じない緊急時の正しい治し方についての真相をお届けします。

医療機関に到着後、専門医はまず下顎骨の骨折がないかを触診やレントゲン(パノラマX線写真)で確認した上で、整復処置に入ります。この際に用いられる代表的な術式がヒポクラテス法(Hippocratic manipulation)です。

紀元前古代ギリシャの医師ヒポクラテスが考案し、現代医学でも基本手技として継承されているこの整復法には、緻密な力学のコツが存在します。

1. 患者と術者のポジショニング
患者は背もたれの低い椅子に深く腰掛け、頭部を壁やアシスタントの体にしっかり密着させて固定します。術者は患者の正面に立ち、患者の顎の位置が術者の肘の高さより下になるよう配置します。上から体重をかけられる角度を作ることが重要です。

2. 把持(はじ)の技術
術者は厚手のガーゼを何重にも巻いた両手の親指を、患者の口の中の下の奥歯(大臼歯部)の噛み合わせの上に置きます。残りの4本の指は外側から下顎の底(オトガイ部)を包み込むようにしっかりと握ります。

3. ベクトルのコントロール(下顎の骨の戻し方の極意)
ここが成否を分ける最大の急所です。術者は前腕と上半身の体重を乗せ、親指で「真下に向けて強く押し下げる」力を加えます。下顎頭を邪魔している関節結節の高さよりも下に引きずり下ろすためです。患者が十分脱力した瞬間を見極め、引き下げた状態をキープしたまま「後方(喉の奥側)へ押し込む」力を加えます。

障害物(結節)をクリアした下顎頭は、咬筋の強力な収縮力によって自然と本来のくぼみ(関節窩)へと「スポン」と滑り込みます。整復された瞬間、大きな音とともに口が完全に閉じます。

患者が最も恐れる「整復の痛み」についてですが、受診が早ければ早いほど筋肉の緊張が少ないため、整復痛は一瞬の圧迫感のみで済みます。しかし、恐怖から患者が力んで抵抗してしまう場合や、発症から数時間が経過して咬筋が硬化している場合は強い痛みを伴います。現代の口腔外科では、局所麻酔薬を関節腔や咬筋に注射して緊張を解く処置や、少量の静脈内鎮静薬を用いてウトウトと眠っている間に無痛下で整復する安全なプロトコルが標準化されています。

山口 彩花
著者

山口 彩花

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。