SNSや相談掲示板で頻繁に見受けられる「小指の骨が曲がって戻らない」という悲痛な叫び。しかし、手外科を専門とする整形外科医の見解によれば、成人の硬い指骨格が日常的なスマートフォン保持の圧力だけで、粘土のようにぐにゃりと曲がってしまうことは解剖学的に考えにくいとされています。では、目視で確認できるあの明らかな「へこみ」と「歪み」の正体は何なのでしょうか。
最大要因として挙げられるのが、皮下脂肪組織の圧迫変形と角質化(タコ)です。スマートフォンの下端という極めて細く硬いエッジが、小指の腹から側面に数時間以上にわたって食い込み続けることで、皮下にある脂肪細胞の水分が押し出され、組織が偏平に押し潰されます。この持続圧が毎日繰り返されると、組織の弾性が低下し、端末を離した後もしばらくの間は元の形状に戻りにくくなります。これがいわゆるスマホ指のへこみ戻らない理由として最も多い病態です。
さらに、海外の医療機関を中心に警鐘が鳴らされているテキストサム損傷の症状では、皮膚のへこみだけでなく、側副靭帯(関節を左右から支えるバンド)への過度な牽引が問題視されています。小指が外側に無理やり押し広げられる力が加わり続けることで靭帯が微小断裂を起こし、慢性的な炎症から組織が肥厚します。関節周囲が腫れることで、外見上「骨そのものが歪んでしまった」と錯覚してしまうのです。
ただし、骨の成長過程にある成長期の10代に関しては話が別です。骨端線(成長軟骨板)が閉じていない発育途上の骨に偏った機械的負荷をかけ続けると、実際の骨形成に悪影響を及ぼすリスクが否定できません。成人であっても、へこみを単なるタコだと放置して同一部位への圧迫を続ければ、組織の線維化が進んで元の滑らかな指に戻るまで数カ月から年単位の時間を要することになります。