北口選手の競技人生を語る上で欠かせないのが、指導を仰ぐデイビッド・セケラック(David Sekerák)コーチの存在です。2018年末、当時日本大学に在学中だった北口選手は、自身のフォーム改善と世界水準の技術獲得を目指し、単身でチェコで行われた指導者講習会に参加しました。そこでセケラック氏の理論に強い感銘を受け、「この人に指導してもらえなければ世界一にはなれない」と直談判したことが、すべての始まりでした。
当初、セケラック氏は英語が得意ではなく、北口選手もチェコ語を全く話せませんでした。言葉が通じないという絶望的な壁を前にしたとき、北口選手が取った行動は驚くべきものでした。通訳を介した練習では細かな身体感覚や投てきのニュアンスが伝わらないと痛感した彼女は、自ら机に向かい、猛烈な勢いでチェコ語をゼロから独学で習得したのです。現在ではチェコ国内のテレビ番組に生出演し、現地のジャーナリストと冗談を交えながら流暢なチェコ語でインタビューに応じるほどの語学力を身につけています。
「言葉を覚えることは、相手の文化と心をリスペクトすること」。そう語る北口選手の真摯な姿勢に、セケラックコーチやその家族、さらにはチェコの陸上界全体が心を打たれました。現在ではセケラック家の食卓に招かれ、地元住民からも「ハルカ」と親しまれるほどの温かい絆が築かれています。この異文化適応力と人間的な魅力こそが、彼女が国際大会でアウェーを感じず、リラックスして実力を発揮できる最大の武器となっています。