排水口の奥を覗き込むと、常に一定量の水が溜まっているのが見えます。この水は「封水(ふうすい)」と呼ばれ、下水管から上がってくる悪臭や有毒な硫化水素ガス、ハエやゴキブリなどの害虫が室内に侵入するのを防ぐ「フタ」の役割を果たしています。この封水を蓄えておく仕組みを「排水トラップ」と呼び、S字型やU字型、お椀型などさまざまな形状で各所に設置されています。
ところが、ある日突然「ボコボコッ」「ゴボッ」という奇妙な音が鳴り響き、気付くと封水が消え失せて下水の臭いが上がってくることがあります。これが「排水トラップの破封」と呼ばれる現象です。封水が勝手に流れて消えてしまうメカニズムの主犯格が、配管内で発生するサイフォニング現象です。
大掃除で灯油ポンプを使ってポリタンクからストーブへ燃料を移す際、一度流れを作ればポンプを押し続けなくても液体が吸い出され続けるのと同じ原理が、排水管の内部で意図せず発生しています。排水管内の気圧が急激に変化して負圧(バキューム状態)が生じると、栓を抜かれたかのように封水が一気に管の奥へと引きずり込まれます。悪臭が漂う根本的な理由はゴミの腐敗だけではなく、部屋と下水を隔てていた唯一の防壁である封水が物理的に吸い取られて消滅してしまう点にあります。