独特な響きを持つ「旅人の木」という呼び名。英語圏でも「Traveller's Palm(旅人のヤシ)」あるいは「Traveller's tree」と呼ばれ、日本での呼称もこの英名の直訳に端を発します。ただし、ヤシ目ヤシ科ではなく、分類上はショウガ目ゴクラクチョウカ科(旧バショウ科)に属する巨大な常緑多年草です。標準和名では、葉が巨大な扇のように平面的に広がる姿からオウギバショウ(扇芭蕉)と名付けられています。
この植物がなぜ旅人と結びつけられたのかには、古くから伝わる2つの有力な説が存在します。
第1の説は「命の給水塔説」です。扇状に重なり合った分厚い葉柄の基部には、雨水が自然と蓄えられる構造になっています。灼熱のマダガスカルの荒野を進む旅人が、喉の渇きを癒やすために葉の付け根にナイフを突き刺し、滴り落ちる澄んだ水を飲んで命を繋いだというエピソードです。実際に現地の成木には1リットル前後の水が溜まるケースが確認されています。
第2の説は「天然のコンパス(方位磁石)説」です。平面的に並ぶ巨大な葉が、太陽の光を最大限に効率よく受けるため、規則正しく「東西方向」に扇を広げて展開する習性があると信じられていました。見知らぬ大地で道に迷った旅人が、この木の扇の向きを見て東西南北を判断したというロマンチックな伝承です。現代の植物生態調査では、日光の当たる角度や周囲の障害物によって葉の展開方向は左右されるため「完全なコンパスにはならない」と結論付けられていますが、過酷な旅路の道標として語り継がれてきた歴史的背景は今も色褪せていません。
こうした逞しい生態と伝承から生まれた旅人の木 花言葉が、「何ものも恐れぬ精神」や「緑の旅人」です。見知らぬ異郷へと挑む冒険家のように、過酷な風雨に耐えながら堂々と天に向かって羽を広げる姿は、新生活を始める人や起業家、新たな挑戦へと踏み出す人への贈り物として選ばれる大きな理由となっています。