蛇のモチーフが持つ最大の強みは、その柔軟な体躯によって人体のあらゆる曲面に自然にフィットさせられる点にあります。どの部位に彫り込むかによって、視覚的なインパクトやストーリー性は大きく変化します。
代表的な部位が、和彫りの蛇を腕のカイナ(手首から肩にかけての広範囲)に巻き付ける構図です。腕の動きに合わせて蛇が躍動するように見えるため、立体感と流動美を最も手軽に楽しめます。「ひかえ(胸)」から腕の七分・九分にかけて蛇の胴体を這わせ、見切り(額)で波や岩、雲を配置するスタイルは、伝統和彫りの美しさを凝縮した王道の仕上がりになります。
一方で、最高峰の迫力を求める愛好家が選ぶのが蛇の和彫りの背中一面です。大蛇(オロチ)が広大な背中全体をダイナミックにとぐろを巻き、般若や不動明王、金太郎などと対峙する構図は圧巻の一言に尽きます。面積が広い分、鱗の一枚一枚のボカシ(グラデーション)や立体的な陰影表現に職人の技巧が遺憾なく発揮されます。