コミック『キングダム』の主人公・信は、戦争孤児として過酷な労働を強いられる下僕の少年として登場します。しかし、キングダム信実在人物としての正史における記録を洗っていくと、その出自は作中設定と正反対の貴族階級であったことが判明しています。
古代中国の歴史書である司馬遷の『史記』において、史記李信将軍に関する独立した列伝(個別の伝記)は存在しません。李信の事績は主に「白起・王翦列伝」「刺客列伝」「李将軍列伝」、そして「秦始皇本紀」の中に断片的な記録として散りばめられています。これらの史料や後世の『新唐書』宗室世系表などを総合すると、李信は秦の南郡太守を務めた李璣の子であり、名門として知られる「隴西李氏」のルーツに位置する名家の生まれでした。
つまり、キングダム信モデル下僕という原点の設定は、原泰久氏が物語のドラマ性を高めるために構築した完全なフィクションです。史実の李信は、若くして秦王・嬴政(後の始皇帝)の側近として抜擢され、軍事的才能を発揮した貴公子武将でした。後年のインタビュー取材で原作者自身も語っている通り、歴史上に名前と大敗の記録が残りながらも「余白の多い武将」であったからこそ、無名の下僕から大将軍へと駆け上がる王道少年マンガの主人公として選ばれたという背景があります。