ウェブ上の言及やQ&Aサイトで頻繁に見受けられる大きな誤解が、「モグリ」と「ヤブ医者(藪医者)」の混同です。どちらも「信頼できない医者」というネガティブなニュアンスで語られるため同一視されがちですが、両者が抱える問題の本質は全く異なります。
決定的な違いは、「国家資格の有無」と「技術力・能力水準」の対比です。
- ヤブ医者:正規の医師免許を所持しているが、診断や手術の腕前が下手で技術が拙い医師(=合法だが無能)。
- モグリの医者:医師免許を持たずに医療行為を行っている人物(=非合法。技術の巧拙は問わない)。
ヤブ医者は、法律上は正当な手続きを経て医療機関を開設し、保険証を使った保険診療を行う資格を有しています。診療結果に対して医療過誤などの過失責任を問われることはあっても、存在そのものが医師法違反として即座に逮捕されるわけではありません。
これに対し、モグリの医者は仮に卓越した医学知識や神がかり的な手技を持っていたとしても、国家資格を持たないまま医業を行った時点で直ちに医師法違反の犯罪者となります。『ブラック・ジャック』が劇中で警察から追われ、表立って看板を掲げられないのは、彼がヤブ医者だからではなくモグリだからです。「資格はあるが下手」なのがヤブ医者、「資格そのものを持たない」のがモグリであるという境界線を理解しておくことは、正しい語彙運用の第一歩と言えます。