名古屋の手羽先を語る上で避けて通れないのが、「風来坊」と「世界の山ちゃん」という二大巨頭の存在です。旅行者からは「どちらも同じ手羽先唐揚げではないのか?」と混同されがちですが、両者の開発思想、スパイス構成、さらには店舗体験は驚くほど対極に位置しています。
風来坊は、手羽先の「肉料理としての完成度」を追求しています。肉質はふっくらと柔らかく、門外不出の手羽先唐揚げ秘伝タレが持つ熟成醤油の甘みとコク、そして香ばしい煎りゴマの風味が前面に押し出されます。辛さは控えめで、子どもから年配者まで幅広い層が食事としても楽しめる、正統派のクラシックスタイルです。
対する「世界の山ちゃん」は、1981年に山本重雄氏が創業した小さな居酒屋「やまちゃん」からスタートしました。風来坊の後発として差別化を図るため、極限まで尖らせたのが「幻のコショウ」と呼ばれる特製スパイスです。ひと口かじれば舌がピリリとしびれるほどの黒胡椒のパンチが走り、ニンニクの効いた辛口ダレが追撃します。肉自体の水分をやや飛ばすようにカリカリに揚げられており、「肉を味わう」という以上に「コショウの刺激でビールを果てしなく流し込ませる」ことに特化した設計となっています。