インターネットの検索窓に「時任三郎」と打ち込むと、サジェストワードとして「病気」「現在」「激やせ」といった不穏な単語が並びます。昭和・平成のドラマ黄金期をリアルタイムで通過した世代から、近年の名作でファンになった若い世代に至るまで、彼の体調を案じる声は後を絶ちません。しかし、結論から言えば、時任三郎が重病に倒れた、あるいは俳優業を完全に引退したという事実は一切存在しません。
では、なぜこれほどまでに病気説が真実味を帯びて拡散してしまったのでしょうか。芸能関係者や制作現場の証言を検証すると、最大の要因はフジテレビ系月9ドラマ『監察医 朝顔』(2019年〜2022年特番)および映画『Dr.コトー診療所』(2022年公開)で彼が演じた役柄の変遷にありました。
『監察医 朝顔』で演じた主人公の父・万木平は、東日本大震災で行方不明となった妻の手がかりを泥まみれで探し続け、シリーズ後半ではアルツハイマー型認知症を発症していくという極めて過酷な役どころでした。時任三郎はこの役柄を演じるにあたり、徹底した体調管理のもとで敢えて体重を落とし、徐々に記憶と生気を失っていく父親のリアルな老いを全身全霊で表現しました。画面越しに伝わる頬の削げ方や白髪交じりの立ち姿、どこか頼りなげな足取りがあまりにも真に迫っていたため、視聴者の間で「演技ではなく本当に病気なのではないか」という驚きと誤解が一気に広がったのです。
さらに映画『Dr.コトー診療所』でも、過酷な漁師生活と脳梗塞の後遺症によって足に障害を抱え、杖をついて息子の行く末を見守る父・原剛利の姿を泥臭く熱演しました。長年親しんできたタフガイとしてのイメージから、年輪を重ねた哀愁漂う老人像への見事なメタモルフォーゼ。それこそが名優の卓越したリアリズム演技の賜物であったわけですが、SNS時代の表層的な切り取りによって「激やせ=重病説」へと飛躍してしまったのが真相です。2026年現在も、自身のペースを守りながらナレーションや単発の映像作品に関わり、穏やかで健やかな日常を送っています。