羽生結弦氏の競技・プロ生活を語るうえで、バイオリンの旋律は切り離せない存在です。ピアノとバイオリンが織り成す繊細かつ劇的な音色は、彼の研ぎ澄まされたエッジワークと完璧な調和を見せてきました。
その筆頭が、北京五輪シーズンに世界を震撼させたショートプログラム『序奏とロンド・カプリチオーソ』です。サン=サーンスの名曲をピアニスト・清塚信也氏が羽生氏のためだけに特別アレンジしたこの作品は、哀愁を帯びたバイオリンの調べと激しいピアノの連打が見事に融合した名プログラムでした。氷上を切り裂くような高速スピンや狂おしいステップは、バイオリンが放つ切迫した情動そのものだったと言えます。
ほかにも、競技初期を支えた『ツィゴイネルワイゼン』や、エキシビションで観客を魅了した数々のナンバーなど、羽生氏の表現の骨格には常にバイオリンの響きが存在していました。それだけに、実力派バイオリニストとの縁が報じられた際、多くのファンが芸術的な共鳴を感じ取り、ふたりの結びつきを美しく捉えていたのも事実です。