エコー検査でダウン症の可能性が議論される際、最も注目を集めるのが「NT(Nuchal Translucency:胎児後頚部透光帯)」と呼ばれる首の後ろのむくみです。妊娠11週0日から13週6日(胎児頭臀長CRLが45mm〜84mmの時期)に、すべての胎児の首の後ろに一時的に観察される生理的なリンパ液の貯留を指します。
このNTが一般的な基準値(約3.0mm〜3.5mm以上)を超えて厚くなっている場合、21トリソミーを含む染色体異常や先天性心疾患などのリスクが統計学的に上昇することが分かっています。しかし、ここで強調しなければならないのは、「NTの肥厚=ダウン症」という等式は成り立たないという事実です。
臨床データによると、NTが3.0mm〜3.4mm程度と軽度に肥厚していた場合でも、その赤ちゃんの約85〜90%は染色体異常も重篤な疾患もなく元気に誕生しています。NTの厚みが5.0mmや6.0mmを超える高度な肥厚であっても、染色体異常が見つからないケースは少なくありません。むくみはリンパ管の発達過程における一時的な遅れや循環系の未熟さによって生じることも多く、妊娠14週を過ぎると自然に消失していくケースが大半を占めます。
さらに、NTの計測には0.1mm単位の極めて高度な測定技術が求められます。胎児の姿勢(首が過度に曲がっていたり反り返っていたりしないか)や拡大倍率、羊膜と皮膚の境界線の正確な識別など、FMF(英国胎児医学財団)などの国際基準に準拠した専門トレーニングを受けた術者でなければ、正確な数値を出すことすら困難です。一般の健診で「首の後ろに影がある」と告げられたとしても、それが精密測定に基づかない単なる観察所見である場合、いたずらに不安を抱え込む必要はありません。