植物学的に、薔薇には青色色素である「デルフィニジン」を生合成するための酵素遺伝子が存在しません。そのため、赤やピンク、黄、白といった薔薇は自然交配で作れても、真の青い薔薇を生み出すことは何世紀にもわたり人類の夢であり、同時に「バイオテクノロジーの限界」とされてきました。英語の慣用句「blue rose」が「不可能なこと」「手に入らないもの」を意味していたのも、この植物学的な絶対の壁が根拠となっていました。
この常識を打ち破ったのが、サントリーとオーストラリアのバイオベンチャー企業(カルジーン・パシフィック社、後のフロリジーン社)による共同研究プロジェクトです。1990年に開始されたこの挑戦は、パンジーから青色遺伝子を抽出し薔薇に導入するという気の遠くなるような試行錯誤の連続でした。開発陣の回顧録や当時の研究報告によると、遺伝子が定着しなかったり、発現しても花弁のpH(酸性度)の影響で紫色に傾いたりと、幾多の挫折に直面したといいます。
実に14年の歳月を経て2004年に開発成功が公式発表され、2009年に「サントリーブルーローズ APPLAUSE(アプローズ)」として一般販売が開始されました。「喝采」を意味する名を与えられたこの奇跡の花の誕生により、園芸界および文化的な定義は根底から覆ることになります。かつて「不可能」を象徴していた青い薔薇は、「夢を諦めずに成し遂げた証」となり、日本植物友の会などを通じて正式に「夢かなう」「奇跡」「神の祝福」という新しい花言葉が定着していきました。