「俺達最強だし」――高専時代の五条悟がこともなげに言い放ち、夏油傑が柔らかな苦笑いでそれを窘めていた日常は、あるひとつの任務を境に音を立てて崩壊しました。ファンが今なお胸を締め付けられる決別の理由は、単なる意見の相違といった生易しいものではなく、「信念の拠り所」「能力格差の露呈」「魂の孤立」が複合的に絡み合った結果でした。
発端となったのは、2006年に起きた星漿体(せいしょうたい)・天内理子の護衛任務です。盤星教の信者たち、そして「術式を持たない天与呪縛の男」伏黒甚爾の襲撃によって理子は射殺され、二人は初めて完全な敗北を喫しました。この事件を機に、反転術式を習得し「個としての最強」へ覚醒を遂げた五条に対し、夏油は非術師(一般人)の醜悪な本性と対面することになります。理子の遺体を前に歓声をあげる盤星教徒の無邪気な拍手は、夏油の心に消えない「非術師への激しい嫌悪」という毒を打ち込みました。
さらに夏油を追い詰めたのが、呪霊操術という術式の本質に伴う過酷なストレスです。呪霊を取り込む際、「降伏した呪霊を黒い球体にして飲み込む。その味は吐瀉物を処理した雑巾を丸飲みするかのよう」と自ら述懐したように、他者の負の感情の澱を独り味わい続ける日々の摩耗は限界に達していました。五条が単独任務をこなすようになり「2人で最強」から「五条悟1人が最強」へ移行したことで、夏油の孤立は決定打となりました。特級呪術師・九十九由基との邂逅で「非術師を皆殺しにすれば呪霊は生まれない」という極論が現実的な解決策として脳裏に定着。そして任務先の村で虐待されていた呪術師の幼女(美々子・菜々子)を保護した際、村人112人を惨殺し、夏油は呪詛師へと身を堕としました。