ネット上でも度々話題になる「牛の角が折れると血が吹き出る」という噂は、誇張でも都市伝説でもなく紛れもない事実です。牧場の現場では「角折れ(つのおれ)」は日常的な軽傷ではなく、一刻を争う獣医学的緊急事態として扱われます。
牛舎の柵に角を引っ掛けたり、牛同士の激しい小競り合いで角鞘が根元からへし折れると、真皮層の動脈が破断して拍動性の激しい出血が起こります。同時に、角神経を通じて人間でいう開放骨折に匹敵する激痛が牛を襲い、ショック状態に陥って採食不能になったり乳量が激減したりすることも珍しくありません。
獣医師による処置現場では、直ちに止血帯(ゴムチューブ等)を角の根元に巻き、焼灼器(焼きごて)で止血を行うか、タンポンと包帯で圧迫止血を施します。さらに重大なリスクが「細菌感染」です。角の芯にある空洞は前頭洞と直結しているため、外気に晒された折れ口から雑菌が侵入すると、前頭洞炎や骨髄炎、最悪の場合は脳炎を引き起こして死に至る危険性があります。
牧場関係者が「角の取り扱いだけは絶対に油断できない」と口を揃えるのは、角が外傷に対して極めて脆弱な「出血しやすい急所」だからに他なりません。