本来、ヒグマもツキノワグマも極めて警戒心が強く、自ら進んで人間を捕食するために襲いかかるケースは決して多くありません。植物や木の実、昆虫、小動物などを主食とする雑食動物であり、人間の気配を察知すれば自ら身を隠すのが基本習性です。では、なぜ歴史に残る悲劇では人間が容赦なく捕食されたのでしょうか。野生動物の行動分析および警察や自治体の調査記録からは、「境界線の喪失」と「味の学習」という2つの決定的な要因が浮かび上がります。
熊は一度「人間の食べ物」の味や、人間の死肉を含む「肉の味」を覚えると、人間を恐怖の対象ではなく「容易に手に入る高カロリーな食料」と認識を上書きします。さらに熊には、自らが手に入れた獲物や所有物に強い執着を示す習性があり、人間がそれを取り返そうとしたり、取り残された場所に戻ったりした際に、激しい攻撃行動に発展します。
事件当時の手記や記録資料を紐解くと、襲撃を受けた被害者たちの多くは、熊の生態的シグナルを見落としたわけではなく、想像を絶する執着心と俊敏さに逃げ場を奪われていた実態が浮き彫りになります。