高齢者の肺炎、とりわけ誤嚥性肺炎が急変する理由の根底には、加齢に伴う呼吸器予備能の低下と全身の脆弱性(フレイル)が存在します。健康な成人であれば、気道に異物や細菌が侵入した際に激しい咳嗽反射(せき)によって異物を体外へ排出できます。しかし、脳梗塞の後遺症やパーキンソン病、認知症などを抱える高齢者は、嚥下反射だけでなく咳嗽反射そのものが著しく減退しています。その結果、睡眠中などに唾液や逆流した胃液が気道へ流れ込む不顕性誤嚥(サイレントアスピレーション)を日常的に繰り返し、肺胞内で広範囲に細菌が繁殖してしまうのです。
さらに深刻なのが、高齢者の肺炎で熱が出ない理由です。通常、細菌感染が起きると生体防御反応としてプロ炎症性サイトカインが分泌され、脳の視床下部にある体温調節中枢を刺激して発熱を促します。ところが、75歳以上の後期高齢者では免疫細胞の応答機能が鈍化しているため、重症な細菌感染であっても白血球の活性化や体温の上昇が起こりにくくなります。臨床現場の医師や看護師の間でも「発熱がないから肺炎ではない」と判断して発見が遅れ、肺全体が硬化して急性呼吸窮迫症候群(ARDS)へ移行した段階で一気に酸素化が破綻するケースが最も警戒されています。