蒲郡市竹島水族館の快進撃を語るうえで欠かせないのが、かつて閉館危機に瀕していた施設を劇的に蘇らせた小林龍高館長のマネジメント手腕と、飼育員たちの並々ならぬ現場主義です。予算も人員も限られた地方都市の公営水族館において、大型のイルカやシャチを飼育することは構造的に不可能でした。そこで小林館長が打ち出したのは、「お金をかけずに頭と手を動かし、魚の魅力を泥臭く伝える」という逆転の発想でした。
その象徴として全国的なブームを巻き起こしたのが、飼育水槽の横にびっしりと貼られた「手書きPOP」です。一般的な水族館の解説パネルといえば、学名や生息域、体長といった図鑑的な無機質なデータが並びがちですが、竹島水族館のPOPは全く異なります。魚の経歴を履歴書仕立てにした「魚歴書」や、飼育員のプライベートのぼやき、さらには「食べると不味い」「油っぽくて腹を壊す」といった、実際に飼育員が深海魚を試食した際のリアルな食味レポートまでが軽妙な語り口で赤裸々に綴られています。
メディアの密着取材や関係者の証言によると、この手書きPOPの導入によって、それまで水槽の前をわずか数秒で素通りしていた来館者の滞留時間が劇的に延びました。心理学的に見ても、人間は「完全無欠な教科書的説明」よりも、「作り手の弱みや偏愛が垣間見える自己開示」に対して強い親近感と愛着(アタッチメント)を抱く傾向があります。ただ魚を見る場所から、「クスッと笑い、魚の本当の個性を知る場所」へと水族館の定義そのものを書き換えたことこそが、竹島水族館が世代を超えて愛され続ける最大の源泉です。