大雪山系の最高峰である旭岳の稜線上に位置する「金庫岩」は、四角い金庫のような独特の形状からその名がついた。本来であれば、姿見の池方面へ安全に下山するための重要な道標だ。しかし、この金庫岩からわずかに離れた場所に、酷似した形状を持つ別の岩が存在する。それが「ニセ金庫岩」である。
天候が急変し猛烈な霧が立ち込めると、登山者は直進しているつもりで「ニセ金庫岩」の脇を通過してしまう。そこは正規の登山道ではなく、急傾斜のガレ場「滑走沢」へと続く危険な谷筋だ。一度足を踏み入れれば、背後の斜面を登り返すことは極めて困難であり、滑落や疲労困憊による身動きの取れない事態に直面する。悪天候下での視界不良が、この二つの岩の識別を完全に不可能にするのだ。