時速280キロメートル。逃げ場のない鉄の塊の中で、日常は一瞬にして地獄絵図へと変貌した。東京発新大阪行きの車内、新横浜—小田原間を走行していた「のぞみ265号」の12号車で、突然男がナタとナイフを振りかざし、隣に座っていた女性乗客へ襲いかかったのである。悲鳴と混乱、パニックに陥る乗客たち。時速数百キロで移動する列車内は、警察の即時介入が物理的に不可能な「完全なる密室」だった。
照明が揺れ、悲鳴が響き渡る車両後方で、事態を察知した梅田耕太郎さんは、躊躇することなく襲われている女性のもとへと駆け寄った。暴漢の凶行を食い止めようと身を挺して立ち向かった彼の行動がなければ、犠牲者の数はさらに増えていたことは疑いようがない。自分自身の命の危険を即座に認識しながらも、他者のために動いた数秒間の決断。その現場に居合わせた人々が語る生々しい証言は、時を経た今もなお息をのむほど壮絶である。