木藤亜也を襲った病魔は、小脳や脊髄の神経細胞が徐々に変性・脱落していく難病「脊髄小脳変性症」である。知性は保たれたまま、運動機能だけが徐々に失われていく残酷な疾患だ。昨日までできていた歩行が、食事が、会話が、ある日突然できなくなる。その恐怖と孤独は想像を絶する。
本作が描き出すのは、亜也本人の苦悶だけではない。病状の進行に戸惑い、時に感情を爆発させながらも、決して手を離さなかった家族の壮絶な献身だ。母・潮香が綴った『残された時間』にもあるように、家族自身もまた出口のないトンネルを手探りで進んでいた。
弱音を吐くことを許されない母親の重圧、姉の病気を受け入れきれない弟妹の揺らぎ。美しい美談として処理されがちな介護の裏にある、剥き出しの人間臭い葛藤を本作は容赦なく提示する。だからこそ、家族が差し伸べる手の温もりが、暗闇の中で放たれる唯一の光として観る者の胸に深く突き刺さるのだ。