本作で主演を務めた有村架純の演技は、キャリア史上最も抑制され、かつ生々しい。是枝裕和監督は今回、あえて詳細な感情ト書きを排除した台本を用意し、現場での即興的な感情の揺らぎをフィルムに焼き付けたという。
特に圧巻なのは、物語中盤の12分間にわたる長回しの対話劇だ。言葉を発するまでの数秒の躊躇、視線の微細な泳ぎ、指先の震え。有村架純は、愛する者を欺きながら生きる女性の罪悪感と諦念を、過剰な叫びではなく「重く沈黙する肉体」で表現しきった。観客が思わず息を呑むあの緊迫感は、計算し尽くされた演出と役者の本能的な直感がぶつかり合って生まれた奇跡的な瞬間である。