1970年4月にリリースされた岸洋子の『希望』は、もともと1969年にカレッジ・フォークグループ「フォー・セインツ」が歌い、若者を中心に静かな支持を集めていた楽曲でした。しかし、この楽曲が日本中を巻き込む社会現象的な感動へと発展した背景には、作曲家・いずみたくと岸洋子の強い信頼関係、そして彼女自身が直面していた過酷な現実がありました。
当時、すでに『夜明けのうた』の大ヒットでスターダムに駆け上がっていた岸洋子ですが、その肉体は常に原因不明の激痛と高熱に苛まれていました。1958年に発症した難病「全身性エリテマトーデス(SLE)」は、彼女の歌手人生に影を落とし続けていたのです。入退院を繰り返すなかで、いずみたくが「この歌は、岸洋子が歌ってこそ真の命が吹き込まれる」と確信し、彼女への提供を強く望んだことが再録音のきっかけとなりました。
当時の制作関係者の証言や手記によると、岸洋子はレコーディングスタジオへ向かう際、自力で立つことすら困難な体調であったと伝えられています。しかしマイクの前に立った瞬間、彼女は憑依したかのように凜とした表情を取り戻し、一節一節に命を削るような情感を込めて歌い上げました。絶望の淵を幾度も覗いた表現者だからこそ到達できた「希望」の響きは、単なるカバー曲の枠を完全に超え、聴く者の心を激しく揺さぶるオリジナルな輝きを獲得したのです。