この歴史的事故を正しく理解する上で欠かせないのが、フッ化ナトリウム フッ化水素酸 違いの明確な認識です。化学式や名称に同じ「フッ素」という元素名が含まれているため混同されがちですが、その物理的・生化学的性質は全くの別物です。
歯科医療で虫歯予防に用いられる「フッ化ナトリウム」は、食塩(塩化ナトリウム)と同様に塩(えん)の形態をとる安定した無機化合物です。微量に摂取された場合でも、エナメル質のアパタイト構造に取り込まれてフルオロアパタイトを形成し、耐酸性を高めて再石灰化を促進する安全な薬理作用を発揮します。
対して「フッ化水素酸」は、皮膚や粘膜から急速に生体組織深部へ浸透し、体内のカルシウムイオンやマグネシウムイオンと激しく結合して低カルシウム血症を引き起こす猛毒です。細胞を破壊しながら骨まで腐食させる性質を持ち、微量の接触でも致死的な不整脈を誘発します。現在、日本の歯科医院においてフッ化水素酸が小児の予防処置スペースに置かれることは構造上あり得ず、医薬品卸からの受入検査体制も厳格化されています。