ネット上の情報や一般的なイメージでは、「心筋梗塞=突然胸をかきむしって倒れ込む激痛」と描かれがちです。しかし、医療の現場ではこのステレオタイプが受診遅延の主因となっていることが指摘されています。
最も警戒すべき盲点は、「まったく胸が痛まない心筋梗塞(無痛性心筋梗塞)」の存在です。特に高齢者や長年糖尿病を患っている患者の場合、末梢神経障害によって痛覚が鈍麻しているため、血管が完全に閉塞していても重篤な胸痛を感じない事例が珍しくありません。胸痛の代わりに訴えられるのは、「なんとなく身体がだるい」「急に息苦しくなった」「ひどい吐き気と冷や汗」「血圧低下による立ちくらみ」といった非特異的な不調です。
消化器系の疾患と自己判断して胃腸薬を服用し、そのまま就寝して手遅れになるケースは後を絶ちません。救急外来における心電図の変化を確認して初めて、広範なST上昇(心筋の全層虚血を示す波形異常)が判明し、すでに心筋の広範囲が壊死していたという事例は日常茶飯事です。
さらに、「血圧が普段から低いから心筋梗塞にはならない」「若いから関係ない」という俗説も危険な誤解です。20代〜40代であっても、喫煙歴、脂質異常症、強度のストレスや過労、家族歴があれば、動脈硬化の初期段階である不安定プラークが突然破裂し、急性心筋梗塞を発症するリスクは十分に存在します。