日体大といえば全国からトップアスリートが集う精鋭集団のイメージが先行しますが、陸上競技の投てき選手、体操選手、格闘技系種目の出身者など、水泳を極端に苦手とする学生も一定数存在します。「泳げない状態で参加したら溺死するのではないか」という不安は、実習を控えた学生が毎年抱く切実な問題です。
しかし、実際のカリキュラムを紐解くと、現地入りする数週間前から大学構内のプールで徹底的な事前実習と泳力診断が課されています。学生は泳力に応じてA班(上級)からE班(初級・カナヅチ)まで厳格にランク分けされ、泳げない学生に対しては専門の教官や水泳部員・ライフセービング部の学生コーチがマンツーマンに近い形で基礎から叩き込みます。
現場を経験した卒業生の手記には、次のような生々しい告白が残されています。
「自分は25メートルすら息継ぎができずに沈むレベルだった。事前授業の初日は絶望しかなく、館山行きを本気で拒否したかった。しかし教官から教わったのは、スピードを出すクロールではなく、いかに脱力して浮き続けるかという日本泳法の技術と立ち泳ぎだった。館山の本番では、波に揺られながら周囲の仲間と声を掛け合い、気づけば1時間以上も海の上に浮いていた。泳げない人間を切り捨てるのではなく、泳げない人間を絶対に沈ませないための実習だったと終わってから分かった」(体育学科OBの手記より)
過酷な海浜実習が真に目指しているのは、自己ベストの更新ではなく「命を守り、他者を救う技術」の体得です。足がつかない恐怖を克服し、集団の力で波を乗り越えた経験は、泳ぎが苦手だった学生ほど強烈な成功体験として胸に刻まれることになります。