今や岡山市内を中心に数百店舗で提供されているご当地グルメですが、その起源を辿ると必ず行き着くのが、昭和6年(1931年)創業の味司野村です。初代店主である野村佐五郎氏が、東京・帝国ホテルで修行を積んでいた料理人の手仕事を目の当たりにし、「この芳醇なドミグラスソースを、日本人が愛してやまないカツ丼に合わせられないか」と試行錯誤を重ねたことから、岡山デミカツ丼発祥の歴史は幕を開けました。
当時の洋食はまだ一般庶民にとって手の届かない高嶺の花でした。佐五郎氏は、白米とカツにそのまま洋食のデミグラスをかけるのではなく、日本人になじみ深い鰹節や昆布の和風出汁、厳選した醤油を掛け合わせることで、丼物としての一体感を極限まで追求しました。厨房の寸胴鍋で長年継ぎ足し守られてきたそのタレは、一般的な赤茶色のソースとは異なり、光沢のある深い黒褐色を帯びています。
ネット上の一部コミュニティでは「八丁味噌を使った味噌カツに近いのではないか」という憶測が飛び交うこともあります。しかし、実際に口に運ぶと味噌特有の鋭い塩気ではなく、煮詰めた野菜やフォンドボーの奥深いコク、そして後口を軽やかにまとめる和出汁の上品な旨味が押し寄せてきます。カツの下に敷かれた茹でキャベツと、頂点に添えられた青々としたグリーンピースは、創業当時から変わらない「野村スタイル」の象徴です。