出張時の残業代をめぐり、人事労務の現場で頻繁に悪用されるのが事業場外みなし労働時間制です。これは、労働者が事業場外で業務を行い、使用者の具体的な指揮監督が及ばず「労働時間を算定し難いとき」に、所定労働時間(例:1日8時間)働いたものとみなす制度です。
しかし、スマートフォンや社用チャットツール、勤怠管理SaaSが当たり前に普及した2026年現在のビジネス環境において、「労働時間を算定し難い」という条件を満たすケースは極めて限定的です。随時連絡を取り合い、業務の進捗をリアルタイムで把握できる状況にあれば、みなし労働時間制の適用自体が無効と判断される可能性が高いのです。たとえみなし制度が有効であっても、通常その業務を遂行するために所定時間を超えることが客観的に必要な場合は、通常必要とされる時間(例:10時間)を基準に残業代を計算しなければなりません。
また、もうひとつの大きな落とし穴が出張手当と日当の違い、そしてこれらと割増賃金との混同です。
企業が作成する就業規則と旅費規程に「出張中は出張手当を一律支給し、残業代は支給しない」と記載されていたとしても、法律の強行規定に反する社内規程は労働基準法第92条により無効です。出張手当はあくまで旅先での余分な個人的支出を補填する性質のものであり、労働そのものに対する対価ではありません。