『BUTTER』は日本国内での評価にとどまらず、2020年代に入ってポリー・バートン(Polly Barton)氏による英訳版が刊行されるや否や、英国の大手書店ウォーターストーンズ(Waterstones)の推薦作に選ばれるなど、欧米の文壇や文芸ファンから熱狂的な支持を集めました。その背景にあるのは、本作が内包する極めて普遍的で鋭利なフェミニズム批評です。
本作が描き出すのは、以下の2重の女性差別構造です。
- 男性社会が求める「お袋の味・良妻賢母」幻想の搾取:カジマナは男たちが好む「家庭的で料理上手な女」を過剰に演じることで男たちを支配し、同時にその愚かさを嘲笑していた点。
- 働く女性に課される「男並みの労働と女らしさの両立」という呪縛:主人公の里佳のように、職場で対等に扱われるために感情を殺し、外見を整え、無理な節制を強いられる現代女性の疲弊。
カジマナが放つ「世の中で私を嫌悪しているのは、フェミニストではなく、努力して男社会に適応しようとしている痩せた女たちよ」という痛烈なセリフは、女性同士を分断させる社会構造の病巣を正確に抉り出します。読後感として残るのは、後味の悪いイヤミス的な絶望ではなく、女性たちが互いの傷を認め合い、理不尽な美の基準やジェンダーロールから解き放たれる爽快なカタルシスです。