ワタリガニを調理する際、最も多くの方が犯しがちな過ちが「たっぷりのお湯で茹でてしまう」ことです。タラバガニやズワイガニのように殻が硬く大型のカニであれば塩茹でも一般的ですが、殻が比較的薄く繊細な肉質を持つワタリガニにおいて、茹で調理は旨味を自ら捨ててしまうリスクを孕んでいます。
水産試験場や調理科学の検証データによると、甲殻類に含まれる遊離アミノ酸(グリシンやグルタミン酸などの旨味成分)は極めて水溶性が高く、多量の湯でボイルすると約20〜30%の旨味成分が茹で汁側に溶出してしまいます。さらに、ワタリガニ最大の魅力であるカニミソや内子は加熱によって一度液状化してから凝固するため、お湯の中で対流が起きると甲羅の隙間から外へ流れ出てしまうのです。
一方の「蒸し」調理は、100℃の高温蒸気でカニ全体を包み込み、短時間でタンパク質を熱凝固させます。水分による直接の洗い流しが起きないため、凝縮された濃厚なコクとジューシーな甘みを甲羅内部に完全に閉じ込めることが可能です。