河井青葉のキャリアを語る上で欠かせないのが、世界的な映画監督・濱口竜介との深い信頼関係です。両者の邂逅は2008年の長編映画『PASSION』に始まり、2021年の短編集『偶然と想像』(ベルリン国際映画祭銀熊賞審査員グランプリ受賞)へと結実しました。
『偶然と想像』の第2話「扉は開けたままで」において、彼女は大学教授を誘惑する罠に加担させられる主人公・佐々木奈緒役を怪演。淡々とした対話のなかに潜む欲望、知性、罪悪感を絶妙な声のトーンと視線の動きで表現し、海外メディアや映画祭関係者から「台詞の音楽性を完璧に体現する女優」と絶賛を浴びました。
映画ファンや批評家の間では、濱口監督がロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞(主演4名へのアンサンブル授賞)をもたらした金字塔『ハッピーアワー』(2015年)の文脈と並び、河井青葉の名が濱口映画のリアリズムを象徴するミューズとして語られることが少なくありません。演劇的な誇張を削ぎ落とし、言葉そのものが持つ響きを身体に浸透させて発話する彼女の技術は、まさに世界基準のシネマティック・アクトと呼ぶにふさわしいものです。