貴志祐介氏による原作小説(第1回山田風太郎賞受賞作)と、三池崇史監督が手掛けた映画版では、作品の根幹をなすジャンル的アプローチが大きく異なります。原作は上下巻に及ぶ長大な文量の中で、蓮実がいかにして他人の心理を掌握し、警察や同僚の疑念を理詰めで回避してきたかという「知能犯のロジック」が精緻に構築されていました。
一方の映画版は、129分の尺の中に濃縮された純度の高い「スラッシャー・エンターテインメント」として設計されています。三池監督は後年のメディア取材や舞台挨拶において「観客がハスミンの圧倒的な狂気に巻き込まれ、恐怖と不条理を体感できる映像体験を目指した」と語っており、心理劇の要素を一定程度削ぎ落としてでも、暴力の圧倒的なスピード感と理不尽さを前面に押し出す演出を採用しました。
なかでも観客の脳裏に焼き付いているのが、散弾銃をリズミカルに装填しながらハスミンが口ずさむ劇中曲『モリタート(メッキー・メッサーの歌/Mack the Knife)』です。ジャズの名曲として知られる軽快な旋律に乗せて、無力な生徒たちが作業のように掃討されていく映像は、三池演出の真骨頂といえます。観客から感情移入の余地を徹底的に奪い去り、悪そのものをエンターテインメントとして客観視させる手法は、映画版ならではの圧倒的な個性です。