本段のクライマックスであり、試験で最も狙われるのが、女を失った男が詠んだ哀傷歌です。
【和歌原文】
白玉か何ぞと人の問ひしとき消えなましものを露と答へて
【現代語訳】
(あれは)真珠ですか、それとも何ですか、とあの人(=女)が尋ねたその時に、(彼女と一緒に露のように)消え去ってしまえばよかったのだなあ。「露ですよ」と答えて、生き残ってしまったことだよ。
この歌は倒語(語順の倒置)になっており、通常の散文の語順に直すと「人の『白玉か何ぞ』と問ひしとき、露と答へて消えなましものを」となります。この構造を理解した上で、詳細な品詞分解を確認します。
・白玉(名詞:真珠のこと)
・か(係助詞:疑問「〜か」)
・何ぞ(疑問代名詞「何」+係助詞「ぞ」:何であるか)
・と(格助詞:引用「〜と」)
・人(名詞:ここでは「愛する女」を指す重要単語)
・の(格助詞:主格「〜が」)
・問ひ(ハ行四段活用動詞「問ふ」連用形)
・し(過去の助動詞「き」連体形)
・とき(名詞)
・消え(ヤ行下二段活用動詞「消ゆ」連用形)
・な(完了の助動詞「ぬ」未然形)
・まし(反実仮想の助動詞「まし」連体形)
・もの(接続助詞:逆接の確定条件、または詠嘆「〜のになあ」)
・を(間投助詞:詠嘆の余韻「〜ことよ」)
・露(名詞)
・と(格助詞:引用)
・答へ(ハ行下二段活用動詞「答ふ」連用形)
・て(接続助詞)
ここで特筆すべきは反実仮想の助動詞「まし」の用法です。「現実は死ねなかったが、あの瞬間に死んでしまえばよかった」という強烈な後悔が、「な(未然形)+まし(連体形)」の形に凝縮されています。「消ゆ」には露が消えることと、人の命が果てることの掛詞的な余情が含まれており、男の痛切な後悔を浮き彫りにしています。