日常会話で使われる「息切れ」や「呼吸困難」は、本人が自覚する主観的な苦しさを指します。これに対して医学的な定義における努力呼吸(effort ventilation)は、外見から観察できる身体所見(他覚症状)を指す点で明確に区別されます。つまり、患者本人が苦痛を言葉にできない状態であっても、客観的に観察・判別できる徴候です。
最大の違いは「どの筋肉を使って呼吸しているか」という病態生理にあります。健常者の安静時呼吸は、主に横隔膜と外肋間筋の規則正しい収縮によって吸気が行われ、呼気は肺や胸郭の自然な弾性収縮力によって受動的に行われます。エネルギー消費は極めてわずかであり、無意識のうちにスムーズな換気が維持されています。
しかし、何らかの原因で気道が狭窄したり、肺のガス交換能が低下して低酸素血症や高炭酸ガス血症に陥ると、通常の呼吸筋だけでは十分な換気量を維持できなくなります。そこで身体が予備タンクを全開にするように作動させるのが、本来の呼吸では使われない「呼吸補助筋」です。
呼吸補助筋の使い方を観察すると、吸気時には首周りの胸鎖乳突筋や斜角筋、胸部の大胸筋が強く収縮し、胸郭を無理やり引き上げようとします。さらに息を吐き出す呼気時にも、通常は使われない内肋間筋や腹直筋などの腹筋群が強く働き、胸腔内圧を高めて強制的に空気を押し出そうとします。これが努力呼吸のメカニズムです。