一方で、過度な定量化が現場を機能不全に陥れる事例が大手・中小を問わず表面化しています。ビジネスパーソンが集うオープンフォーラムやSNS、大手転職口コミサイトの投稿を分析すると、数字偏重マネジメントに対する切実な告白が数多く見受けられます。
都内大手IT企業に勤務する30代のプロダクトマネージャーは、社内の評価制度改定を振り返り、次のような実態を証言しています。
「すべての業務を数値指標(KPI)で管理する方針が下りてから、社内の空気が一変しました。全員が自分の目標シートにある数字を稼ぐことだけに集中し、隣の席の同僚が困っていても誰も手を貸さなくなったのです。システム移行期の一番泥臭いデータ整理や、若手のメンター業務といった『指標化されない仕事』を引き受けた人が損をする。結果として、最も献身的だったエース社員から退職していきました」
ネット上の掲示板や知恵袋でも、「定量評価の弊害」に関する生々しい相談が頻繁に交わされています。
- 「テレアポの架電数目標を月間1,200件に設定された結果、誰も話を聞いてくれない名簿へ機械的に電話をかけまくるだけの無意味な作業が横行している」(人材業界・20代営業)
- 「定量的エビデンスを求めすぎるあまり、データが揃うまで半年間も新規施策のゴーサインが出ず、競合他社に先を越された」(Webマーケティング企業・30代)
- 「人事評価面談で『定量的基準に達していない』と機械的に昇給を見送られたが、その数字が市況悪化によるものなのか本人の能力不足なのかを上司が全く検証してくれない」(製造業・40代)
社会科学の分野では、これを「キャンベルの法則」や「グッドハートの法則」と呼びます。「ある特定の社会的指標が意思決定のために用いられるようになると、その指標自体が本来持っていた意味が歪められ、指標をハックする不正や不健全な行動を誘発する」という心理的・構造的な罠です。数字だけを絶対視する組織は、長期的には組織の土台を崩す危険と隣り合わせにあります。