理論上は「被害者保護の強力な盾」として機能する不真正連帯債務ですが、事故現場や損害賠償交渉の最前線では激しい利害の衝突を引き起こします。典型的なトラブルの温床となっているのが、民法719条に規定される共同不法行為責任と、民法715条に基づく使用者責任の現場です。
多重交通事故の紛争調停現場では、当事者から悲痛な叫びが上がることが珍しくありません。ある示談調停の場で当事者が語った手記には、制度の冷酷な一面が克明に記録されていました。
「交差点での玉突き事故に巻き込まれ、私の過失割合は30%、もう一方のドライバーが70%と判断されました。ところが、相手が無保険で貯金もゼロだったため、被害者の弁護士から『不真正連帯債務ですから、あなたの任意保険で治療費と休業損害の100%を支払ってください』と迫られました。法的に正しいと説明されても、なぜ過失が少ない自分が全額を肩代わりしなければならないのか、割り切れない怒りが消えませんでした」
この証言にある通り、被害者側から見れば「確実に満額回収できる救済措置」である反面、加害者側から見れば「他人の不始末を全額背負わされるリスク」へと変貌します。過失割合が「70対30」であっても「90対10」であっても、外部的な関係において被害者に対しては100%の責任を負います。内部分担の割合は、あくまで加害者同士の事後処理にすぎません。
さらに、企業の業務中に従業員が重大な横領や事故を起こした際の使用者責任(民法715条)も不真正連帯債務の典型例です。判例実務上、会社と従業員は被害者に対して全額の賠償義務を連帯して負います。被害者側は資力の乏しい従業員個人ではなく、支払能力の確かな会社に対して全額請求を行うのが通例であり、企業側にとっては予測困難な財務的打撃を被る要因となっています。