水木氏が体験した南方戦線の実態は、後年の自伝的戦記漫画『総員玉砕せよ!』に生々しく描かれています。バイエンの守備隊に所属していた際、敵の上陸作戦に直面した部隊は、上層部からの理不尽な突撃命令によってほぼ全滅に追い込まれました。
九死に一生を得てジャングルを泳ぎ、本隊へ帰還した水木氏を待っていたのは、生還を喜ぶ言葉ではなく「なぜ貴様だけが生きて戻ったのか」という冷酷な叱責でした。死ぬことを前提とした軍隊の不条理と、命を軽視する組織の冷酷さを骨身に染みて味わったこの従軍体験が、生涯を通じて反戦のメッセージを発信し続けた彼の原点となっています。
「死者に鞭打つような組織の論理よりも、生き延びることそのものに価値がある」という信念は、まさにこの南方戦線での極限の生還劇から生まれた確信でした。