江戸時代の東海道において、箱根越えは旅人にとって命がけの難所でした。急勾配の坂道や悪路が続く中、ひと息ついて体力を回復させるために街道沿いには数多くの茶屋が並んでいましたが、時代の移り変わりとともにその姿を消していきました。その中で、唯一創業当時と同じ場所で暖簾を掲げ続けているのが、この箱根 甘酒茶屋です。
現在切り盛りするのは第13代の店主。店内に足を踏み入れると、土間には厚みのある木製ベンチが並び、中央の囲炉裏には薪がくべられ、杉皮と茅(かや)で葺かれた高い天井に煙が静かに吸い込まれていきます。この箱根 甘酒茶屋の茅葺き屋根は定期的に職人の手によって葺き替えられており、単なるレトロ風建築ではなく、生きた歴史的文化財としての重厚感を醸し出しています。
400年以上もの間、旅人を惹きつけてやまない最大の理由は、「時代が変わっても製法と温もりを変えない」という徹底した職人哲学にあります。電気や機械に頼りすぎず、手仕事のぬくもりを大切にする空間は、情報過多な現代を生きる人々に深い安らぎとノスタルジーを与えています。