映画で描かれた、香ばしい焼き色と魚のカボチャ包み。そのルーツを探ると、イギリス南西端の港町マウスホールにたどり着く。16世紀、冬の暴風雨によって港が封鎖され、飢餓に苦しめられた小さな漁村での物語だ。村民の命を救うため、トム・バコックという勇気ある漁師が荒れ狂う冬の海へ単身船を出した。彼が大漁のイワシを持ち帰り、作られたのがこの焼き料理である。魚の頭を天に向けてパイ生地から露出させる形は、魚が「星を見つめている(Stargazer)」様子に由来する。
単なる奇抜なデザインではない。魚の頭と尾を生地の外に出して焼くことで、加熱中に溢れ出る上質な脂や旨味の強い出汁がそのまま内側のフィリングに回帰する。生活の知恵が生んだ合理的な調理法なのだ。毎年12月23日の「トム・バコックの夜」には、地元でこのパイを囲み、命を繋いだ英雄を称える祭りが今も盛大に催されている。