心不全とは、心臓のポンプ機能が低下して全身に必要な血液を十分に送り出せなくなり、肺や全身に血液が滞る(うっ血する)状態を指します。独立した特定の病名ではなく、様々な心血管疾患や生活習慣病が悪化した結果として生じる「症候群」です。臨床現場では急性心不全と慢性心不全の違いが明確に区別されます。急激に心機能が破綻して強烈な呼吸困難に陥る急性心不全に対し、慢性心不全は数か月から数年をかけてじわじわと心臓が弱っていきます。
慢性心不全の発症基盤には、過去の心不全の原因疾患である心筋梗塞や狭心症、長年放置された高血圧、弁膜症、心筋症などが深く関与しています。心筋の細胞がダメージを受けると、心臓は拍出量を保とうと無理に心筋を肥大させたり心室を広げたりして代償します。しかし、この代償機構が限界を迎えた瞬間に、急激な症状の顕在化が始まります。
日本循環器学会の報告でも、再入院を繰り返すたびに心機能と身体機能が段階的に低下する「心不全の悪化スパイラル」が指摘されています。多くの患者が初期の異変を「年のせい」と自己判断して見過ごし、救急搬送されて初めて事態の深刻さに直面するというのが実態です。