一般的なビルの階段であれば、785段は約40階分、1368段は約70階分に相当します。しかし、こんぴらさんの階段が現代の建造物以上に過酷に感じられる背景には、歴史的建造物特有の「構造的・生理学的要因」が存在します。
1. 石段の蹴上げ(高さ)と踏み面(奥行き)の不均一さ
現代の建築基準法で作られた階段と異なり、金刀比羅宮の参道は自然石や切り出し石を積み上げた歴史的な石段です。一段ごとの高さや奥行きが場所によって異なり、視覚的なリズムが乱されるため、無意識のうちに下肢のスタビライザー筋肉(インナーマッスル)が酷使され、疲労が急速に蓄積します。
2. 終盤に訪れる心臓破りの急勾配「御前四段坂」
大門(365段)を抜けた後の「桜馬場」で一時的に平坦な道が続くため、参拝者はそこで呼吸を整えることができます。しかし、628段の旭社を過ぎた直後、本宮直下に立ちはだかるのが「御前四段坂(おまえよんだんざか)」と呼ばれる133段の急傾斜です。すでに疲労困憊した脚に最大角度の負荷が一気に加わるため、ここが最大の脱落ポイントとなっています。
3. 下山時に生じる大腿四頭筋へのエキセントリック(伸張性)負荷
見落とされがちなのが「帰り道の下り」です。上りで心肺機能と筋肉を消耗した状態で数百段以上の石段を降りる際、膝関節を支える大腿四頭筋には着地の衝撃を吸収するための強烈なブレーキ運動(伸張性収縮)が繰り返されます。これが「膝の笑い(痙攣)」や翌日以降の強烈な筋肉痛を引き起こす主要因となります。