読者が「あべこべ世界」と聞いて真っ先に思い浮かべるのが、てんとう虫コミックス第17巻に収録された名作「あべこべの星」です。いつも勉強も運動もダメで叱られてばかりののび太が、自分と寸分違わぬ姿をした住人たちが暮らす別の惑星へと迷い込むところから物語は始まります。
この世界最大の特徴は、地球上のあらゆる概念、常識、価値観が180度反転している点にあります。地球では劣等生とされるのび太の頭脳や運動神経が、この星ではなんと「歴史に名を残すレベルの大天才・スーパースター」として扱われるのです。地球ののび太が何気なく書いたひらがなや、単純な足し算・引き算を披露しただけで、周囲の大人が驚嘆し、テレビ局が押し寄せるほどの騒動に発展します。
さらに読者に衝撃を与えたのが、おなじみのレギュラーキャラクターたちの性格崩壊とも言える変貌ぶりです。
いつもは町内最強のガキ大将であるジャイアン(剛田武)が極度の泣き虫となり、些細なことで涙を流していじめられる側に回っています。一方、普段はおとなしく心優しいしずかちゃん(源静香)は非常に乱暴で男勝りな性格に変貌しており、木登りをしたり下品な行動をとったりと、地球のしずかちゃんからは想像もつかない振る舞いを見せます。また、裕福さを自慢するスネ夫は極めて貧乏で気前が良い性格になるなど、徹底した性格逆転が描かれました。
加えて、作中では男女の性別逆転(男がスカートを履き、女がズボンを履くなど服装や社会通念の逆転)も描写されており、1970年代の連載当時としては極めて前衛的なジェンダーロールの反転描写が盛り込まれていました。