日本のプロ野球における「沢村賞」とMLBの「サイヤング賞」を同一視していると、選考結果に対して大きな認識のギャップが生じます。ネット上やSNSで頻繁に見受けられる「勝利数が一番多い投手が選ばれるはず」という見解は、現代のメジャーリーグでは完全に過去の遺物となっています。
このパラダイムシフトを決定づけたのが、2010年のフェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)の受賞でした。彼はわずか13勝(12敗)にとどまりながらも、防御率2.27、投球回249.2イニング、奪三振232という圧倒的な投球内容を評価され、19勝を挙げたライバルを退けてサイヤング賞を獲得しました。さらに2018年・2019年にはジェイコブ・デグロム(メッツ)が、それぞれ10勝、11勝という二桁勝利ギリギリの成績でありながら、防御率1.70〜2.43という神がかり的な投球内容で2年連続受賞を果たしています。
現代のBBWAA投票者は、「味方打線が無得点に終わった試合で、投手がいくら1失点完投しようと負けがつく」という野球の構造的欠陥を熟知しています。そのため、投手の真の実力を反映しない「勝ち星」よりも、運の要素を極限まで排除したスタッツを重視する共通認識が確立されているのです。