そもそも、なぜ日本語では横の並びを「行」、縦の並びを「列」と定義したのだろうか。この行が横で列が縦の理由を探ると、日本の伝統的な書字文化と近代化の歴史的背景が見えてくる。
かつて日本語は縦書きが主流であった。文章を上から下へと書き進め、次の行へ移る動作を「改行」と呼んだ。このとき、視線や筆の動きは「縦に書かれたラインを横方向に次々と並べていく」ことになる。つまり、書かれた文章の一筋を「行」と呼び、それが横に連なっていく構造から、水平方向のまとまりを「行」と認識する土壌が生まれた。
一方の「列」は、軍隊の隊列や建物の柱のように「前後に並ぶ」「縦に連なる」状態を指す漢字として用いられてきた。「縦列駐車」や「整列」という言葉が示す通り、人間が前を向いて並ぶ方向は垂直軸(縦)である。これが近代の数理科学や帳票レイアウトの翻訳時に整理され、水平方向が「行」、垂直方向が「列」として定着した経緯がある。
また、学術分野における行列の数学の見分け方においても、このルールは完全に統一されている。線形代数などで登場する「$m \times n$ 行列」は、必ず「$m$ 行(横) $\times$ $n$ 列(縦)」を意味する。最初に横方向の番号(行番号)を指定し、次に縦方向の番号(列番号)を指定する「横先・縦後」の順序は、世界共通の数学的プロトコルとして確立されている。