同じバッタ目コオロギ科に属し、しばしば混同される鈴虫とエンマコオロギですが、発音メカニズムや音響物理学的な特性を比較すると明確な違いが浮き彫りになります。
特筆すべきは「羽の重ね合わせ方」です。一般的なコオロギ類は「右羽の上に左羽」を重ねて擦り合わせる個体が多いのに対し、鈴虫は基本的に「右羽が上、左羽が下」という独自のフォームで羽を打ち振ります。また、音の高さを示す周波数帯にも決定的な差異が存在します。
音響分析の観点から特筆すべきは、鈴虫が奏でる約4,500ヘルツ(Hz)という高周波です。この帯域は、人間の耳が小川のせせらぎや鳥のさえずりに対して「清涼感」「心地よさ」を感じる音響特性と重なっています。さらに、一定のリズムの中に微妙なゆらぎを含むため、自律神経を整えるリラクゼーション効果をもたらすことが音響心理学の研究でも指摘されています。
一方で、通信技術の現場では有名なトリビアがあります。一般の固定電話や標準的な携帯電話音声通信は、人の声の帯域である「300Hz〜3,400Hz」の範囲外をデータ圧縮のためにカットする仕様になっています。そのため、どれほど部屋の中で鈴虫が美しく大合唱していても、受話器越しに通話相手へその音色を届けることは構造上不可能です。