インターネット上の一部では、「年俸の折り合いがつかなかった」「マエケンが条件面で妥協しなかった」といった憶測が散見されますが、これは実態と大きく乖離しています。本質的な問題は金額の多寡ではなく、広島東洋カープという組織が持つ独自の経営哲学と現場の編成サイクルにありました。
広島の球団経営は、親会社からの巨額の赤字補填を受けず、自前で黒字を維持する独立採算制を基本としています。そのため、補強における投資判断は極めて合理的かつ慎重です。現在のカープ投手陣を見渡せば、床田寛樹投手、森下暢仁投手を筆頭に、若い先発陣が着実にイニングを稼げる体制を整えつつあります。ここに30代後半を迎えた実績十分のベテランを高年俸・複数年で迎え入れた場合、ローテーション枠が1つ固定され、育成途上にある次世代の投手の登板機会が圧迫されるというジレンマが生じます。
また、黒田投手が復帰した2015年とは異なり、現在のチームは「優勝にあと1ピース足りない」という段階というよりも、チーム全体の再構築と世代交代を進めている過渡期にあります。「情に流されて大型契約を結び、数年後のチーム編成を硬直化させることは避けたい」という編成部の冷徹なまでの合理的判断が、情緒的なファンの待望論を押し切る結果となったのです。