結論から明示すれば、「市販された初代ワゴンRの最終スタイリングそのものを仕上げたのはスズキ社内のデザインチーム」であり、ガンディーニが単独で外装を完成させたわけではありません。しかし、単なるネット上のデマかといえば、それもまた明確に否定されます。当時の開発陣や業界関係者の証言を辿ると、開発の初期フェーズにおいてマルチェロ・ガンディーニによるデザインプロポーザルが存在したことが浮き彫りになります。
1990年代初頭、スズキは軽自動車の規格内で室内空間を極大化する「新ジャンルの軽ワゴン」を極秘裏に計画していました。コードネーム「88S」と呼ばれたこの一大プロジェクトにおいて、スズキ首脳陣は社内コンペと並行して、当時フリーランスとして辣腕を振るっていたガンディーニに対しても先行デザインの提案を依頼していたとされます。当時のモータージャーナリズムや関係者の回顧録によると、ガンディーニ側から提出されたスケッチやクレイモデルは、極限まで無駄を削ぎ落としたスクエアなプロポーションと、幾何学的なラインが際立つ極めて前衛的なものでした。
結果として、日本の道路事情や厳格な製造コスト、プレス加工の実現性を踏まえ、社内チーフデザイナーの浅井慶一氏らによる社内案が最終採用されることとなりました。しかし、巨匠が提示した「極限のパッケージング思想」は社内チームに計り知れない衝撃を与え、結果として初代ワゴンRが持つ独特の機能美と塊感に多大なインスピレーションをもたらすことになったのです。