包丁を入れた瞬間から始まるりんごの褐変現象は、果実に含まれるポリフェノール(主にエピカテキンやクロロゲン酸)と、酸化酵素であるポリフェノールオキシダーゼ(PPO)が引き起こす生化学反応に起因します。丸ごとのりんごでは細胞膜によって守られているこれらの成分が、刃物で細胞が破壊されることで混ざり合い、大気中の酸素と結合してキノンと呼ばれる物質へと変化します。
生成されたキノンが周囲のアミノ酸やタンパク質と結合を繰り返す過程で、褐色色素であるメラノイジン様物質が形成され、あの特有の茶色い膜が表面を覆うことになります。つまり、変色を食い止めるためには「酵素の働きを物理的・化学的に阻害する」または「酸素との接触を物理的に遮断する」という2つのアプローチが必須条件となります。
農研機構などの食品機能研究でも示されている通り、変色したりんご自体に毒性があるわけではなく、栄養価が著しく損なわれることもありません。ただし、食感のシャキシャキ感が失われ、酸化臭が生じることで風味の劣化につながるため、見た目の美しさとおいしさを両立させる適切な下処理が求められます。