日本国内で流通する晩白柚の9割以上を生産する熊本県八代市。現地のベテラン農家やJAやつしろの関係者が口を揃えて語る極意は、「果実との対話を楽しむゆとり」です。
八代地方の農家を取材した記録や手記によれば、地元では収穫した晩白柚を床の間や玄関、居間に鎮座させ、正月の飾り物や天然の芳香剤として2週間から1ヶ月ほど愛でるのが古くからの習わしです。「黄色い皮からプンと甘い香りが立って、指で押して皮がフコフコしてきたら包丁を入れる。それまでは絶対に焦って切るな」というのが、代々受け継がれてきた鉄則です。
現代の住宅事情においては、追熟させる「部屋の環境」にも細心の注意が必要です。エアコンの温風が直接当たる場所に置くと、果皮ばかりが急激に乾燥して内部の水分が抜け、追熟する前に「す上がり(果肉がスポンジ状にスカスカになる現象)」を起こしてしまいます。理想的な保管場所は、暖房の風が当たらず、直射日光を遮った風通しの良い居間(室温15〜18℃程度)です。
また、現地で親しまれている晩白柚の楽しみ方は果肉だけに留まりません。分厚い白皮(アルベド)をアク抜きして作る「晩白柚漬け(砂糖煮)」やピール、果皮を湯船に浮かべる「晩白柚風呂」など、外皮から中身まで丸ごと使い切る文化が根付いています。食べるまでの追熟期間を含め、五感全体で味わうプロセスそのものが晩白柚という果実の醍醐味と言えます。